●コンクールレポート●
「第7回全日本アマチュアギターコンクール」
主催:全日本ギター協会

2006年8月20日(日)、三鷹市芸術文化センターにおいて毎年恒例となった『全日本アマチュアギターコンクール』が行われました。7回目となる今回は、66名の参加申し込みのうち2度のテープ審査を経て48名がステージでの最終予選出場の権利を得ました。




――――― 最終予選・本選レポート ―――――

■最終予選

・第2次予選通過者48名のうち、1名が怪我のため棄権、1名が無断欠席のため失格となり、46名により競われました。

・課題曲:エンデチャとオレムス(タレガ)

審査経過

・審査員7人は次の要領ですべての演奏を評価しました。

― ぜひ本選に進ませたいと思う人を記録する

― 本選に進むのは難しいと思う人を記録する

― 上2者の中間を任意の段階に分けて評価記録する

・審査員7人全員が“ぜひ本選に進ませたい”として推薦した演奏者は2名でした。

・次いで推薦の多い人を、中間段階の評価と各審査員の意見を踏まえつつ8名選び、合計10名を本選出場者に決定しました。

・“本選に進むのは難しい”との評価が1人でもあった演奏者は、結果的に通過していません。

・しかしある程度の推薦があり“本選に進むのは難しい”とした審査員が2人以下に止まっている演奏者については、講評の際名前を発表し健闘を励ますこととしました。

 次の方々です。

 ■勝又木綿子さん、小段重忠さん、小林和重さん、佐藤二朗さん、長野 武さん、野原富男さん、古本勝利さん、三馬大志さん、森本素子さん、山内文夫さん、山口恵一郎さん、吉井佳実さん

演奏について

■ミスは“しないこと”よりも“後に曳かない、最後まで集中力を絶やさない”が肝要■

・美しいタッチでミスがなく、拍節感を失わない自然な流れの中に自分を主張できた人が通過しました。

・〈エンデチャ〉は6〜7、11〜12小節の、和音の連続する部分に(音楽的に追い込むような表現をしようとの思いが演奏者に緊張を強いるためもあってか)ミスタッチが多く、ここは1つのポイントになったようです。

・この部分は技術的には至難というほどではありませんが、普段家では弾けているからこそ油断(精神状態のギャップによるステージでの過度の緊張)が生じたものと思われます。従って、ステージでの緊張状態に自分を置いた、集中度の高い練習が肝要でしょう。

・ただし審査結果を見ると、目立つミスが起きた時点で即刻、本選選出は無理とは判断されていないようです。

・従って、目立つミスがあったにも関わらず通過できた人もいました。それはミスの動揺をその後の演奏に曳きずらず・ミスを繰り返さない・表現が消極的あるいは投げやりにならない・最後の1音に至るまで集中力と愛情を絶やさず演奏した、これらが予選通過に繋がったと思われます。

・審査員からは、

― 感覚だけで歌う(=日本人的)のではなく、拍節(ビート)感の中で歌わせられるように良くリズムを考えなければ

― 出だしがアウフタクトであることを意識しているかなど、譜面に書かれているリズムのように聴こえない

 といった指摘が目立ちました。これらもそのようであれば即刻減点というのではないようですが、大きなミスがないのに通らなかったという人は、この点で何か審査員に推薦を躊躇させるもの、所謂、音楽が流れない、表現が恣意的、今1つサマにならないキマらないといった印象になったものと思われます。

■また課題曲演奏全体の感想として、曲を気に入って(自分の歌を描きながら)演奏しているのが分かって良かった、例年より緊張に縛られ弾いている感じがしないという意見と、逆に(自分の歌に片寄り過ぎて)例年より譜読みが甘かったという意見がありました。

■予選通過の園城寺哲男さんは結果発表の前に帰られてしまい、連絡をとるべく務めたのですが、結局、本選演奏時間に会場にいなかったため、たいへん残念ながら失格となりました。

 目指す演奏ができなかった場合、意に満たない思いがつのるのは当然ですが、ミスをしても曲の最後まで集中力を絶やさないことと同じく、どうか結果発表、他の方の演奏、講評にまで耳を傾けていただきたいと思います。

 その真摯な気持ちは必ず、次の演奏に反映すると思います。



■本 選

9名で競われました。

前述のとおり結果的に1名が失格となりました。

審査経過

・審査員は第1位から第6位までの演奏者を選び、上位を多く得ている人から順位を決定しました。

・第1位と第2位は即決、第3位とMoisycos賞(次席)は接戦だったため順位にやや審議を要し、入賞者以外に強い推薦があれば設ける特別賞に1名を決定しました。

演奏について

審査の場およびその後の取材で挙がった評価を記してみます。

・【第1位】亀田裕之さん

 審査員7人中6人が第1位(残り1人は第2位)に推したことにより、文句なく即決しました。完成度の高い演奏に「かなりの表現力を持っている」「気になったのは、最後の変奏で低音の旋律が浮きあがらなかったことぐらい」との評価がありました。

・【第2位】鈴木幸男さん

 次いで上位を多く得ており、第2位に即決しましたが、「ヴィラ=ロボスの意図した音楽と違うのでは」との評価は、やや力演一本槍で〈エチュード8番〉の各部に雰囲気の描き分けが少なかったことによるものと思われます。

・【第3位】日方薫子さん

 【Moisycos賞】村上正彦さん

 第3位、Moisycos賞(次席)には議論が費やされましたが、「(技巧だけでなく構成力の面でも)難度の高いC=テデスコをしっかりまとめた」日方さんが第3位となりました。選曲と一応の完成度が評価されたわけですが、他方、「もっと自分を表現できる曲を選ぶべきで、今回の選曲は疑問。難度より表現の面での好演を評価すべき」という逆の意見もあって、その辺りが論点となりました。

 Moisycos賞(次席)の村上さんはややミスタッチが目立ちましたが、それ以外は終始オーソドックスな音楽で、第1位と第2位を1票づつ得ているのが注目されます。

【その他の演奏者】(演奏順)

・糸坂直志さんのブローウェル「一応はサマになっているが、曲本来の姿ではない」「ブローウェルというよりクレンジャンス」との評は、曲の持つリズム感に適っていないということでしょうか。「タランテラのテンポはあれで良いのか」「テンポよりリズム感の問題ではないか」といった審査員のやりとりも、一応はこなしているが何かインパクトに欠けるといったもどかしさを表していると思います。

・大西友典さんはかなり柔軟自在な歌いまわしを聴かせましたが、「音を操ることを楽しんではいるが、それが歌にまではなっていない」「それ以前に装飾やスラーの発音不良が気になる」といった評価でした。しかし個性には至らないものの、他の演奏者にないものを好ましく感じた審査員もいたようです。

・末積 武さんはミスが目立ってしまいました。「ミスという点を除いても、音や音楽がやや細い」「難度が凄く高い曲ではないだけに目立つミスは大きい」という評価でしたが、真摯な音楽に共感を持った審査員は多いと思われます。

・中津川久夫さんは序盤で崩れた(度忘れ)が尾を曳いてしまいました。予選ではセンスの良い演奏を聴かせていただけに、審査でも不調を惜しむ声が聞かれました。「練習不足だったのかもしれないが、ぜひとも本調子のときもう一度聴いてみたい」との声を励みにしていただきたいと思います。

・前田真悟さんは、特に2人の審査員からの推薦があって特別賞となりました。小さいミスはありましたが「曲をとても好きなこと、(遊び心も持って)演奏を楽しみたいことが伝わる演奏」。入賞には至らなかったものの、そのような演奏が特別賞という形で評価されたことは、当コンクールの主旨に適うことであり喜ばしいと思います。

■【審査全般について】

 アマチュアに参加資格を絞ったこのコンクールは、他のコンクールとは審査基準が異なる部分もあると思います。ミスの扱い、音のバランス、クラシックギターの演奏として理に適っているか、研究がなされているか、といったこと以上にアマチュアとして演奏を楽しんでいることにより注目度を高く置く場合もあるからです。音楽の基本はしっかり踏まえつつその部分をどう好意的に評価するかについて、審査員はすべての演奏に懸命に耳を傾け、コメントを記し、時間の許す限り論議しました。疑問点・ご意見などがありましたら可能な限り意を尽くして回答したく思います。

(文責・高橋 望)


【本選出場者と自由曲】(演奏順)

・鈴木幸男/エチュード8番、プレリュード第1番(ヴィラ=ロボス)

・糸坂直志/シンプル・エチュード1,5,7番(ブローウェル)、タランテラ(クラムスコイ)

・村上正彦/セビーリア(アルベニス)、ベネズエラ・ワルツ第3番(ラウロ)

・亀田裕之/マルボローの主題による変奏曲(ソル)

・大西友典/ベネズエラ・ワルツ第2番(ラウロ)、アラビア風奇想曲(タレガ)

・日方薫子/ソナタニ長調〜第1楽章(C=テデスコ)、牧歌(R.S.デ・ラ・マーサ)

・末積 武/プレリュード第3,1番(ヴィラ=ロボス)

・中津川久夫/椿姫の主題による幻想曲(タレガ)

・前田真悟/エストレリータ(ポンセ)、ミシオネーラ(ブスタマンテ)




第8回全日本アマチュアギターコンクール予定


2007年8月19日(日)

最終予選 13:00開始、本選 17:00開始

三鷹市芸術文化センター 風のホール


課題曲

 第1次予選(テープ審査):6. 愛のロマンス〜前半のみ(作者不詳) PP.10〜11

 第2次予選(テープ審査):16. メヌエット(パガニーニ) P.24

 最終予選(公開審査):43. メヌエット・イ長調 Op.11-6(ソル) PP.69〜70

 本選(公開審査):5分以上8分以内の自由曲、曲数任意

 (注)課題曲はいずれも、現代ギター社版「発表会用ギター名曲集」(中川信隆・監修)を使用し、くり返しは省略すること




■ 会場となった三鷹市芸術文化センター

■ 賞品の一部

■ 受付

■ 最終予選出場順抽選会

■ 審査員室の様子

■ 司会:伊藤 成 ■ 開会挨拶:全日本ギター協会代表志田英利子

■ ゲスト演奏:柳澤正邦氏(第6回全日本アマチュアギターコンクール優勝者)

■ 最終予選合格者発表、本選出場順抽選会

■ 本選の演奏が終わり、審査の間恒例となったインタビューを受けるゲスト演奏者と本選出場者

■ 審査員[左より50音順] 井桁典子、江部賢一、江間常夫、エルマンノ・ボッティリエーリ、志田英利子、中島晴美、堀江志磨

■ 表彰式:第1位亀田裕之さんに賞状と副賞が授与された ■ 優勝者インタビュー:亀田裕之さん

■ 講評:審査員代表江部賢一

■ 入賞者〔前列左よりMoisycos賞(次席)村上正彦さん、第2位鈴木幸男さん、第1位亀田裕之さん、第3位日方薫子さん、特別賞前田真悟さん〕と審査員〔後列〕

■ 第1位 亀田裕之さん

■ 第2位 鈴木幸男さん

■ 第3位 日方薫子さん

PHOTOGRAPHS (C) 2006 NORIYUKI AWATO